相続税の落とし穴~相続で注意すること~ important-point
① 非課税枠で贈与のはずなのに、名義預金のわな
父の死去に伴い、相続税の申告を済ませたAさん。財産の中心は不動産で、父名義の預金は少ないと認識していたため、専門家に頼まず自分たちで申告しました。
ところが1年後、税務署から税務調査の通知が――。
調査の結果、母名義や兄弟名義の預金が「実質的に父の財産=名義預金」と判断され、追加で約2,000万円が課税対象に。
数百万円の追徴税額が発生し、延滞税も加算されることに。しかも納税資金が足りず、慌てて不動産の一部を売却する事態になりました。
ポイント
名義預金は「家族の名義でも実際は被相続人が管理していた預金」のことで、税務署が重点的に確認する項目です。
相続税は、知らなかった・意図がなかったでは済まされず、事後対応が難しいのが特徴です。
早めに専門家に相談することが、不要なトラブルを防ぐ鍵となります。
② タワマン節税
相続税に関する納税者が敗訴した代表的な判例として、2022年4月19日に最高裁で確定した判決があります。
このケースでは、被相続人が90歳を超えてから多額の借入金を用いて高額な不動産を購入し、相続税評価額を大幅に下げることで相続税をゼロとする申告を行いました。
具体的には、被相続人は2009年に東京都内のマンション2棟を約13億8,700万円で購入し、2012年に亡くなりました。
相続人は、これらの不動産を路線価(通常の相続税評価において用いられる評価額)に基づき約3億3,000万円と評価し、借入金と相殺して相続税をゼロと申告しました。
しかし、税務署はこれを不適当と判断し、不動産鑑定評価額約12億7,300万円を基に再評価し、約3億円の追徴課税を行いました。
この処分に対し、相続人は不服を申し立てましたが、国税不服審判所、東京地裁、東京高裁、そして最高裁すべてで敗訴となり、国側の主張が認められました。
裁判所は、被相続人の高齢での不動産購入や、購入後すぐに売却された事実などから、節税目的が明白であり、財産評価基本通達6項の適用が妥当と判断しました。
この判例は、相続税対策としての不動産購入が、節税以外の経済的合理性を欠く場合、税務当局から否認される可能性があることを示しています。
ポイント
相続税対策を検討する際は、専門家と相談し、適切な手続きを行うことが重要です。
③ ゴッホの絵画「医師ガシェの肖像」に関する相続税評価訴訟(2005年)
この事案では、故斉藤了英氏が生前にオークションで約7,500万ドル(当時約80億円)で購入したゴッホの名画「医師ガシェの肖像」が相続財産となりました。
相続人は、相続税申告においてこの絵画の評価額を5,000万ドルと申告しましたが、税務当局はこれを過少申告と判断し、評価額を7,500万ドルと認定しました。
裁判所は、過去の売買実例価格が評価の重要な資料であるとし、相続人の主張を退けました。
ポイント
高級時計や絵画、高価な動産については、過去の売買実例や市場価格が相続税評価の基準とされることがあります。
相続税申告においては、専門家の助言を受け、適切な評価を行うことが重要です。
④ 不適切な売買契約について(平成15年6月19日判決)
こちらは、著しく低額な不動産譲渡が贈与と認定された判例です(平成15年6月19日裁決)。
この事案では、祖母が孫に対して不動産を売却しましたが、その売買価格が市場価格より著しく低かったため、税務当局は相続税法第7条に基づき、差額分を贈与とみなして課税しました。
納税者はこれに異議を申し立てましたが、裁判所は実質的に贈与があったと認定し、納税者の主張を退けました。
相続税法第7条では、「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合には、その財産の時価と支払った対価との差額に相当する金額は、贈与により取得したものとみなされる」と規定されています。
この規定により、形式上は売買契約であっても、実質的に贈与と認定される可能性があります。
ポイント
このような判例は、相続人・被相続人や親族間での不動産取引において、適正な価格設定が重要であることを示しています。
相続税対策や贈与を検討する際は、税務の専門家に相談し、適切な手続きを行うことが重要です。